たまご絵本館

-たまご絵本館-

 

【建築概要】

■構造・規模  木造平屋建て

■延床 面積  113.76㎡

■用   途  図書館

■完   成  2022年

■デザイン  野井成正氏

■実施設計  m4建築設計室

■施   工  株式会社丸山組(橋本市)

■所 在 地  橋本市高野口町大野1807-17

民間施設ですが一般開放されています。

 

今回は「たまご絵本館」を紹介します。

「たまご絵本館」は橋本市高野口町大野、京奈和自動車道の高野口ICをおりてすぐの山裾に位置しています。観光土産品などの製造卸販売を行う「オカザキ紀芳庵」さんの本社隣の橋本市が保有する敷地にあります。近くには橋本市周辺広域ごみ処理場とごみ焼却時に発生する余熱を利用した市営浴場がある以外は何もないので、特に南西側は見晴らしが良く、夕焼けが綺麗で、紅蓮の時期には一体が真っ赤に染まるそうです。そんな場所に「オカザキ紀芳庵」さんの岡崎社長が、子ども食堂を運営する市民と関わり、「貧困問題」の深刻さを知り、幼い時につらい思い出しかなかったら、大人になって地域への愛着心は育たない。家族とゆったりと過ごせる場があればという思いで、クラウドファンディングや地元の多くの応援者・応援企業の協力を得て、コロナ禍の2022年4月に開設されました。

橋本市は養鶏が盛んで、卵生産量が県内トップということで、橋本市のことをもっと知ってもらおうとたまごの形をした建物にし、橋本市の子どもたちが豊かに育ってほしいという思いから「たまご絵本館」という名称に決めたそうです。建物は南北に正対し、上空から見ても東西から見ても、緩やかな曲線の卵型になっています。外壁・屋根は卵の殻を連想させる白色のガルバリウム鋼板を使い、入口扉には卵をモチーフにしたステンの装飾があり、子どもたちを優しく迎えてくれます。中に入ると、絵本の展示、読み聞かせ、紙芝居、折り紙教室などを催すことが出来るように米松の構造材でトラスを組み、出来るだけ柱・壁・仕切りのない空間を作っています。また、床は寝転んでゆったり過ごせるよう肌触りの良い杉の床板を使用していました。取材の日は、雪がちらつくほど寒い日でしたが、床下は断熱材とパーティクルボードで断熱対策が施され、床暖が入っているかのように足元は温かく、取材の際もいつも子どもたちがしているように床に座って話を聞かせて頂きました。内壁は、こちらも卵の中身を模した卵黄色の漆喰で仕上げられていました。この壁はクラウドファンディングで出資してくださった方々と一緒に塗ったそうです。天井にも杉板が貼られ、床の杉板、トラスの米松が相まって、視覚的にも足元にも、心にも温かい空間になっていました。室内は約100㎡で小学校の教室の1.5倍ほどの大きさで、南側が玄関入口、北側に勝手口があり、東西に大きなFIX窓、天井には天窓4カ所があり、朝日、日中、夕日の光が存分に入り、暗い雰囲気にはならず、常に明るく、静かさを求められる図書館とは少し違った空間になっています。また、地元の企業が「たまご絵本館」のために作成した段ボール製の本棚などがあり、様々な種類の絵本が約1,300冊揃っており、幅広い年齢の子どもたちが楽しむ事が出来ます。入館は無料で月・火曜日が休館で水・木・金曜日は10時から16時まで、土・日は10時から17時まで開館しています。運営は地元のボランティアの方々と「オカザキ紀芳庵」さんの従業員さんでされています。民間でこれだけの施設を建設し、運営されていくのは大変なことだと思います。岡崎社長と地元橋本市の応援者・応援企業の熱い思いが伝わる建物でした。

昨今、地方からの人口流出、コロナ禍によるコミュニケーション不足が懸念される中、あらゆる世代の交流の場として、また地域全体で子育てを支援していくことにより、地元の方々、企業の結束も高まり、色んな意味で地域を豊かにする施設だと感じました。子育て世代の皆様は訪れてみてはいかがでしょうか。

【会報誌きのくにR6年3月号掲載】

                             情報・出版委員 堀内弘樹

 

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