世界遺産熊野本宮館

ー世界遺産熊野本宮館ー

 

■建築概要

□構造規模 木造平屋建

□延床面積 1.402㎡

□用途 文化施設(展示・図書・ギャラリー・インフォメーションセンター)

□設計 香山壽夫建築研究所/設計協力 阪根宏彦計画設計事務所

□施工 山幸

□所在地 田辺市本宮町本宮100-1

 

公共建築100号記念は田辺市本宮町にあります世界遺産熊野本宮館です。2009年(平成21年)に竣工した建物は2011年の紀伊半島大水害で大きな被害も受けましたが見事に復旧し、現在も木の香りが漂う豊かな空間が広がります。

 

この規模にして木造の平屋建てというのがしっくりこないくらいの広い施設です。建物の側には熊野川がゆっくりと流れその背後には熊野の山々が連なります。この大自然の環境をそのまま設計に反映したい、そんな設計者の思いを感じさせるかのように室内は立派な木材が並びます。“スギの木が林立するように”そんなコンセプトを垣間見るかのように8寸角の木が規則正しくきれいに並びます。

 

 

建築全体は木構造で、周囲をカーテンウォールで覆っています。軒下までガラス面が確保されているので内部空間が実に明るいです。開放的な室内は1つの大きな空間に杉の木によって緩やかに間仕切られ展示空間やインフォメーションセンターの機能を果たすように計画されています。天井は36㍉のJパネルを野地にすることで壁倍率3倍を担保しつつ、柱割とこのパネルによりきれいな細長格子の天井面が形成されています。片流れの大きな屋根に包まれるように広くヴォリュームのある室内空間が広がり、規則正しく並んだ柱に呼応するように天井の木組みがとても美しいです。

 

建物は“木造の大空間実現の為に分棟計画とした”とあります。その建物の間にはコンクリートで構成された庇があり、その先に熊野川と山々が広がります。南北に別れた建物ではそれぞれに本施設での重要な用途となる展示空間が計画されています。“紀伊山地の霊場と参詣道”・“本宮地域の歴史”の展示では世界遺産となった熊野本宮大社、郷土の歴史や文化、にまつわる展示空間となっています。これら展示空間と建物も呼応するように計画されているので木の存在を感じることのできる空間となっています。北棟では8角形の多目的ホールが目を引きます。内部の木組みは実に美しく、日本建築のアイデンティティーを感じます。上部に行くほど広がる天井空間にトップライトからの暖かな光が格子を通して差し込みます。天井高から逆算してもこの空間が木造なのかと思うほど豊かな木造空間です。

 

これらの建築を成立させるために原木でおよそ1,200㎥分もある杉の木々が使用されたそうで、そのために近隣の製材所のみなさんがかなりのご尽力をなされたそうです。通常、木造の大空間となると集成材を使った空間が想像されますが本施設ではいずれも無垢の材木によって構成されているのが大きな特徴の1つであると思います、

本建築を語る上で忘れられないのが紀伊半島大水害(2011年9月)です。熊野川流域に甚大な被害を受けました。熊野川の氾濫により川の水が土手を超えて本建築を襲います。床上浸水だけではとどまらず建物が浮いたそうです。2012年6月に始まった復旧工事はおよそ10ヶ月に及んだそうです。今後の浸水対策・浮力対策として建物全体をジャッキを使って1.5m持ち上げる難工事です。改修工事を終えた建物は床面が上がったために緩やかなスロープを使ってアプローチしますが高度な技術により災害前と同じファサードを保持しています。自然災害に対する構えを施し、全世界から訪れる人たちにとってより安心して利用できる施設になったと思います。

 

木のぬくもりを肌で感じる事のできる建築です。無垢材で構成された大空間は未来の木造建築の在り方を示唆しているかのように感じます。本施設が目指す3つのコンセプト、“自然・伝統・木材”まさにこれらを体感できる施設であり、100号記念にふさわしい建築であると思います。世界遺産本宮大社・熊野川・紀伊山地の山々に並んで悠久の時を歩んでいく施設になると思います。

【会報誌きのくにR6年4月号掲載】

情報・出版委員会 東端秀典

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