高野山大学 図書館

高野山大学 図書館

 

■竣工 昭和4年(1929年)
■設計 武田五一
■施工 清水組
■構造 鉄筋コンクリート造 地下1階、地上3階

 

DSC04225 竣工は今から82年前。関西建築界の父とも詠われる建築家・武田五一の設計によりこの高野の地に近代的なコンクリートで造られた図書館が完成しました。32万冊にもおよぶ図書の多くは宗教関係のもので、とりわけ、真言密教に関する書籍、書物が多い図書館です。

  建物の構成は1階にアーチのあるエントランス・館長室(当時は喫茶コーナ)・事務室・貴重書庫(当時は研究室)、2階に3階までの吹き抜け空間のある閲覧室・研究室、3階に研究室と閲覧室上部と3層の明快な構成です。高く白いアーチの天井が広がる閲覧室は明るく、広々としており、この建物のシンボル的な場所であることが分かります。同フロアに広がるいずれの研究室も天井が高く、窓からは光が差し、白い天井・壁とブラウンの床・木枠・建具が織りなすコIMG_9864ントラストもよく、非常に気持ちのいい研究空間です。閲覧室・研究室の3層構造に対し、書庫は各層の天井高を抑え5層で構成され、竣工当時のままの本棚はL型アングルで丁寧に組まれております。ちなみに、この鉄はいずれも八幡製鉄所のものであるとの事です。書庫へは閲覧室からのアプローチに加え、事務室からアクセスできるようになっており利便的な設計が行われていたと考えられます。また、この図書館の特色は建物のプログラムからも伺うことができます。研究室と図書館が一体となって構成されている例はあまり見ません。しかし、研究機関と図書館機能が密接に繋がりを持っている事は当然であり、IMG_9872よりよい研究環境が当時から存在していたと考えられます。明快な建物の構成と素直な機能構成、そして西欧建築を意識した意匠は近代建築の特色であるといえます。また、いずれの部分を拝見しても使用状態が大変よく、流れた時間を考えると実に貴重な建物であると思いました。

  取材に訪れた当日も研究室の一室では古い書物の解読作業が行われておりました。この図書館の書籍の中には近隣の寺院から寄贈を受けたものも多いとのことです。当日、先生がお調べになっていたのは平安末期の書物で、僧侶となる儀式の際に使用していた司祭具の図面のようなものでした。昨今、図書館建築(本建物は大学図書館であり公共図書館ではないが)はよりリベラルな機能を有することが求められ、コミュニティーセンターや、メディアセンター、ギャラリー等の機能を併設IMG_9878する例も多いです。
 これらは常に最新の情報を吸収・発信し、更新をしています。同様に、本図書館では新しい書籍は元より、古い書籍の蔵書が増え、日々研究が行われ続けています。一見、真逆のように見える事例ですが、これらは脈々とした“知”の鼓動であり、図書館という建物が持つ役割と考えられます。歴史を大切にし理解を深め、故人の教えに触れ、現在の自分を見つめ日々精進する、この教えは宗教的な側面だけでなく、教育IMG_9886の基本ではないだろうかと思いました。

  このようなことを高野山大学図書館に訪れ、考えさせれられ、また一歩成長できたように感じた見学となりました。いつまでもこの図書館が機能し続けることを願います。

 【会報誌きのくにH23年10月号掲載】

 

 出版・情報委員 東端秀典

 

 

 

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