有田市立そとはま保育所

有田市立そとはま保育所

エントランス【建築概要】

■主体構造・規模   鉄骨造平屋建て

■建築面積     1298.77㎡(保育棟)   24.92㎡(倉庫棟他)

■設計監理     アトリエ・アースワーク

■構造設計     I・O建築構造研究所 富山大学

■施  工     (株)保田組

■施工期間     2011年8月~2012年3月

 

 今回は有田市港町にある『そとはま保育所』をご紹介します。市内保育所の老朽化と耐震計画に伴い2ヶ所の保育所を統合して新たに建設、2012年に開園されたのが『有田市立 そとはま保育所』です。国道42号線から西に約800m入ったその敷地は、以前は旧東亜燃料の社員寮が有った場所で近隣には石油タンクが見える一方、住宅街の外れで周辺には空き地も有り閑静だけれど少し寂しい印象も受けます。そんな中を保育所に向かうと真っ先に目に飛び込んで来るのが白いガルバリウムの大屋根で、緩やかな曲線と軒先の長い直線がとても印象的です。四角い箱型の建物を優しく包み込んでいるようにも見え、元気に通園する子供たちを迎え入れてくれます。

全景 「一本の屋根の曲線からこの設計がスタートした」と設計者がお話くださった屋根は、3層に組み合わされた 軽量角形鋼管で構成され軒先の低い所では3m、2方向の軒先から中央に向かって天辺の6.5mまで緩やかな曲線を描き、一枚の大屋根となって建物を覆っています。一つとして同じ曲線は無いという屋根の鋼材は96,000もの接点が有り、それによって美しい三次元の屋根が成立されていて、鉄骨では画期的な工法を用いているそうです。建物には梁が無く屋根を支えるのは11本の柱。平面計画とリンクし、ランダムでありながら11m以内に配置されているそうです。また多目的ホールの周りに配置されている柱は中程から分岐し、大樹の枝のように弧を描いて屋根を支えています。

 「おもちゃ箱をひっくり返したようなわくわくする空間」で構成された建物は、ひとつの大きな箱の中に様々な大きさの保育室やトイレが点在するように配置され、それぞれが建物の中心にある多目的ホールと園長室に直結する動線を持っています。園長室は腰壁で間仕切りされているだけなので、その場所から園全体を見渡す事ができ、お母さんが家事をしながら子供を見守っているような安心感があります。また保育室には担当保育士の荷物置き場を設け、常に子供に目が行き届くよう考えられています。多目的ホールは遊び場であったり3歳児以上の食事場所であったりしますが、保育所のお遊戯会や入所式等のイベントにも使用出来る広さを採っています。日常では年長の子供達が床の雑巾がけをしたり、配膳を手伝ったりするそうですが、子供達の交流の場となり自然とお兄ちゃんお姉ちゃんが小さい子供達の面倒をみるという微笑ましい光景が見られるそうです。

 保育所では夏と冬の期間には建物全体をPS HR-Cという放射冷暖房装置を使い24時間空調管理されているので、子供達は冬場にシャツ1枚でも快適に過ごせます。天井裏スペース全面にはキューブ状のグラスウール断熱材が40㎝~60㎝の厚みでブローイング充填され、断熱や生活音の軽減にも大きな効果を発揮しています。また今後のメンテナンスに備え、給排水設備や電気配線等の配管は全て床下90㎝の空間に納められています。部屋によって高さの違う天井には50㎜のスリットを設けて紀州材杉無垢板を張る事で残響が減る効果も得られ、多目的ホールや保育室の床材には無垢材のフローリングを使用しているので素足に優しく、また間仕切り壁の出隅や入隅には曲線を持たせているので元気に動き回る子供にとって安全で快適な空間となっています。室内建具や家具にも紀州材を使用し、子供達の肌に木の温かみが伝わる配慮もされています。「建物は子供のようなもので作って終わりという事では無く、この保育所との繋がりのように開園後もずっと携わっていける事が嬉しい」というお話を伺い、のびのびと育つ子供と共に成長して行く建物と地元への愛情を強く感じました。

 そとはま保育所の近くには現在、市民プールが建設されているところで、隣の空き地にも公園が出来るそうです。近くこの地域が、子供の元気な声が聞こえる市民憩いの場所になっていくでしょう。

【会報誌きのくにR1年9月号掲載】

情報・出版委員会  西 祐代

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