湯浅駅旧駅舎

ー湯浅駅旧駅舎ー

 

    • ホーム傍のイートインスペース

      所在 和歌山県有田郡湯浅町大字湯浅1075-2

    • 建築概要 木造 平屋建て 建築面積281.89㎡

延べ床面積199.64㎡

  • 設計・監理 株式会社つぎと
  • 施工 株式会社平林組

 

 

 

今回は湯浅町にある「湯浅駅旧駅舎」を紹介します。湯浅駅旧駅舎は、国鉄紀勢線(現在の紀勢本線)が、紀伊湯浅駅(現在の湯浅駅旧駅舎)まで延長された昭和2年に開業し、そこから、物流の拠点という役割のみならず、湯浅の市街化の構成に大きな影響をもたらしました。鉄道の開通によって、駅周辺には官公庁施設の移転、繁華街が形成されるなど、多くの人々の往来と賑わいが生み出されました。その後、平成27年頃に、湯浅駅周辺の整備計画が持ち上がり、駅自体の機能は、この旧駅舎の北側に建てられた湯浅えき蔵(会報誌きのくにR3年3月号掲載)に移されることとなりました。それに伴い、持ち主であったJRとしては、この旧駅舎を閉鎖、解体しようという考えでした。しかし、アンケートや説明会において、「なんとか、この駅舎を残して欲しい。」という、住民の声が多かったことがあり、湯浅町がJRに働きかけて協議が行われました。結果、旧駅舎の建物がJRから湯浅町へ無償譲渡され、整備改修して残すことが決まりました。令和4年から改修工事がはじまり、令和5年5月にオープン、駅舎から地域住民や観光客の交流の場という形に生まれかわりました。かまど炊きご飯でつくられたおむすびが食べられる売店も併設されています。改修工事のコンセプトは「昭和2年の開業当時の姿に出来るかぎり近づける。」でした。というのは、この旧駅舎はその歴史の中で、改修が繰り返されており、外観、内装共に開業当時とは変わり果てた姿になっていたのです。改修工事は、建物をほぼスケルトン状態にして行われました。復元された部分をいくつか紹介します。

①菱葺き屋根:既存の屋根材をはがしたら元々の屋根は菱葺きで葺かれていた形跡が確認されたので、菱葺き(板金)に復元された。②ドーマー窓:小屋裏を調査するとドーマー窓の痕跡が確認されたので、復元された。③漆喰塗りの天井(元の出改札室の天井):開業当時に作られた漆喰塗りの天井が一部残って、そのまま残した。等、これらの他にも、開業当時のままを残している部分が幾つかあります。開業当時に戻したとは言え、現代にも十分に通ずるモダンでとても良い雰囲気の建物に仕上がっています。上手に改修されたなあという印象を受けました。また、ホームのすぐ傍がイートインスペースになっています。この事例は、他の駅では無い、とても珍しいケースとのことで、鉄道好きの方は行ってみたくなるだろうなと思いました。現状、月に約2,000組の来客者が訪れているそうです。取材日には、外国人観光客の方もいらっしゃいました。このように、古い建物を整備改修して地域の活性化に繋げることは素晴らしいことだと思います。

【会報誌きのくにR6年5月号掲載】

情報・出版委員会 大江 猛史

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