和歌山県 土砂災害啓発センター

和歌山県 土砂災害啓発センター

 

東牟婁郡那智勝浦町市野々3027-6

平成28年(2016)4月竣工

木造2階建て

延べ面積 492.78㎡

建築面積 340.33㎡

設計 竹内建築設計研究所

施工 東宝建設株式会社

 

10年前(平成23年)の9月、台風12号は和歌山県、特に中部から南部に甚大な被害をもたらし、いたる所で家屋の浸水、土砂災害が発生しました。

災害から約1週間後、私たちは和歌山県建築士会から被災家屋調査員として現地に派遣され、県内各地から応援に駆け付けた県や自治体職員らとともに新宮市、及び熊野川地区、那智勝浦町の被災家屋被害調査に携わる事となりました。TVニュースで見た電線に車が引っかかったり、巨石が家を押しつぶしているのを目の当たりにして、言葉を失いました。  特に那智川の状況は、半年前に発生した3.11東日本大震災を彷彿させるような衝撃であり、それでも県内はもとより全国各地から大勢のボランティアが駆け付けてくれ、泥まみれになりながらも一生懸命に泥出しや片付けなど復旧作業に当たられているのを見て胸が熱くなりました。

その後、和歌山県はこの土砂災害で甚大な被害を受けた那智勝浦町のこの地、那智山の麓、熊野古道大門坂入口駐車場の一角に、大水害などの甚大な被害を繰り返さないため、土砂災害の記憶を後世に伝えるとともに土砂災害に関する研究および啓発の拠点としてこの施設を計画、5年後に完成、竣工しました。

木造2階建て、1階は一般来場者向け展示スペース、研修室、事務室があり、2階は一般者は立ち入り禁止でありますが,近畿地方整備局紀伊山系砂防事務所那智勝浦監督官詰所と研究室が配されます。研究室には、近畿地方整備局大規模土砂災害対策技術センターが設置され、国や県の土木技術者が町や大学、研究機関と連携を図りながら日々研究活動されています。

内装には紀州材がふんだんに使われ、特に床材には杉を圧密加工により耐磨強度を増加させたフローリング材が使用されています。1階入口を入るとすぐに2階まで吹き抜けの展示スペース、ホールがあり、ドーンと中央に設置された土石流発生実験装置が目に留まります。またその周囲には土砂災害の記録パネルや映像装置が設置され、上部の大きな開口部からは近くにある砂防堰堤が見渡せるようになっています。土石流発生実験装置は砂防堰堤の種類や機能を知り、実験を実際に見ることができ効果を検証することができます。そして、この施設の西、山側にもさらに機能を強化し、意匠も工夫された新砂防堰堤が建造されました。また、東の那智川の向こう側にも本体工事が完了し修景工事を進めている砂防堰堤があり、実物大の本物を見ることができます。この様な施設はとても珍しく、貴重であります。

センターでは例年多くの各地域自主防災会や小中学校の研修を受け入れてきましたが近年はコロナの影響で県内での修学旅行が人気となり、海洋体験と併せた利用が多いそうです。また、各学校や団体への出張防災教育にも力を入れているようです。近年の災害では想定外だとか異常気象だからとかの言葉が聞かれますが明治以降でも土砂災害は各地で何度も発生しています、戦後の急激な人工林化や放置林、無謀な造成地など中には人災と思われるような事例も見受けられますが想定外では済ませられません。近年整備されてきた地域のハザードマップを確認し、大人だけでなく子供のころからの防災意識の向上はとても大切だと思います。センターは年中無休(年末年始のみ休館)ですので、和歌山市からだと少し遠い(約3時間)ですが周辺は那智の滝や熊野古道、ジオパークと見どころ満載です。生マグロを味わいがてら一度は見学されることをお勧めします。また、ホームページでも為になる映像や被災体験紙芝居の他、日ごろ目にすることのない調査研究の様子、防災教育風景などが見ることができます。

最後に日夜、災害対応技術を研究、開発し自己研鑽に励まれる土木研究者技術者に敬意を表したいと思います。ありがとうございました。

【会報誌きのくにR3年12月号掲載】

情報・出版委員  永田佳久

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