有田川町 吉備庁舎

有田川町 吉備庁舎

 

【建物概要】

■構造・規模:鉄筋コンクリート造 地下1階 地上4階建て

■延床面積:4,802.28㎡

■既存建築 平成6年7月竣工

設計・監理 株式会社黒川紀章建築都市設計事務所

      施工 株式会社竹中工務店大阪支店

■改修工事 令和3年3月竣工

設計・監理:株式会社岡本設計

■施工:株式会社紀州コーポレーション(建築工事)

    株式会社山口電機(電気設備工事)、バンドー設備工業株式会社(機械設備工事)

 

 今回は全面改修工事が完了した『有田川町吉備庁舎』を紹介します。旧吉備町庁舎として、建築家 黒川紀章氏の設計にて、1994年に完成しました。敷地は周辺の平野部からよく見える高台にあり、風景を受け止めるような形態の「庁舎棟」と、円形の「議会棟」の2棟に分かれており、それぞれがブリッジで連結されています。庁舎棟の北面は、全面カーテンウォールとなっており、平野側に向けて大きく開かれています。外壁は、特徴的なデザインが施されたコンクリート打ち放し仕上と、豊かな質感を持つタイルで構成されています。平野側から見ると、2つの建築が、後ろの山々の緑と青空をバックにとても美しくシンボリックに佇みます。

 その名建築が、完成から27年を経て、今回の大規模な改修工事となりました。改修内容としては、老朽化した設備の更新、エレベーターの耐震化に伴うやり替え、照明器具のLED化、空調機器の全面的な更新、自家発電設備の設置等、設備に関する改修が中心となっています。外部については、屋上防水のやり替えや、外壁のコンクリート打ち放し面の補修を行っています。またエントランス廻りの車寄せ部分は、車いす使用者用の駐車場の整備や、そこからの渡り廊下の設置など、より障害者の方が利用しやすいように改修されています。室内の間取りについては、一部の和室などの改修を除き、既存の間取りを変更せずに改修をしています。設備的な改修に伴い、天井が全面的に改修されていますが、室内の壁・間仕切りなどは既存のままとしています。一部損傷が激しい通路の床等は、改修をしています。既存をほぼ残しながら改修をする事で、改修後も、何の違和感も感じず、今まで通りのこの素晴らしい建築空間を感じる事ができます。つまり、27年前の完成当時と変わらない姿を残すことに成功した改修という事になります。黒川紀章氏の名建築を、完成当時の姿を残しながら改修する事は、とても素晴らしい事と感じると同時に、大変難しい仕事を成し遂げていると感じました。名建築を残していこうという配慮は、各所で見られます。1階の執務室は、空調効率の関係から、1m天井高さを下げています。しかしながら、天井の納まりを工夫する事で、当初からの幾何学模様の開口部のデザイン・イメージを、損なう事無く改修されています。黒川紀章氏独特なデザインを多く残しながら、現在の設備仕様に合わせた改修を行った有田川町庁舎は、これからも、有田川町のシンボルであり続けるという事を、強く感じました。

【会報誌きのくにR3年11月号掲載】

情報・出版委員 佐原光治

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