紀陽銀行本店

紀陽銀行本店

 

所在地:和歌山市本町1丁目17番地
竣  工:昭和29年(1954年)  設計監理:日建設計工務     施  工:大林組
建築面積:1,294.63㎡  延床面積:5,705.04
構  造:鉄筋コンクリート造 地上5階 地下1階

  和歌山県に本拠を置く唯一の銀行である紀陽銀行の本店は和歌山市本町にある。和歌山市の中心街本町通りに面した建物は銀行建築としての風格を漂わせている。ファサードは建物全体を5分割したフレームをつくり、中央の4本の円柱がフレームを支えている。タイル貼りの壁面を後退させることによって陰影が強調され垂直性と重厚さが備わった端正な建物である。正面には規則正しくガラスブロックをkybk-03(保田龍門のレリーフ)嵌めた開口部が並び、2階上部にあたる壁面には四つのレリーフ(浮彫)が掲げられているのが特色である。和歌山県出身の彫刻家保田龍門氏(1891-1965)が62歳の時に依頼を受け制作したもので、林業・漁業・柑橘・繊維の和歌山県の主要産業を表している。和歌山県を牽引する地域を代表する銀行の意気込みが感じられる。

 中央のメインエントランスから1階営業室に入る。2階吹抜けの広い空間は他では味わうことのできないゆったりした気持ちにさせてくれる。客だまりにはテラゾー仕上げの独立した3本の円柱が、シンボリックに空間を支えている。カウンターから事務スペースさらに2階のアーチ窓に装飾が施されている。

 

竣工写真

竣工写真

 「紀陽銀行100年史」によると、建築費用は、竣工当時の金額で、主体工事が約18,000万円、設備工事が7,500万円で計2億5,500万円。さらに机・イス・キャビネットなどの事務用什器・備品・調度品・内装品などを加え、総額3億円を上回ったと記載されている。当時県内で最も豪華な建造物として大きな話題となった。完成後、数年は県内各地から見学者が絶えなかったという。

 紀陽銀行は、明治28年(18955月紀陽貯蓄銀行として米屋町に設立したことにはじまる。明治45年に現在の本町1丁目に移転した。唐破風を設けた重厚な商家の佇まいの建物は、元浪速銀行和歌山支店の建物であった。大正88月には、レンガ造2階建て石張りの社屋が建設された。大正11年(1922)普通銀行に転換し株式会社紀陽銀行に改組される。昭和2079日の和歌山大空襲では建物を焼損し、辛うじて外形はとどめたものの内部は焼失した。戦後修復し、営業室を増築したが、業務の拡大や人DSC04835員の増加で旧社屋は手狭となっていた。昭和282月本店新築に着手し、昭和29516日に竣工した。その後平成20年には耐震補強工事がなされた。

 昭和29年という戦後からの復興期の中であったが、シンプルな中に銀行建築としての風格を備えた名建築である。細部まで良く考えられたディテールは長い年月を経た現在でも見るものに新鮮な印象を与えている。

【会報誌きのくにH25年3月号掲載】

               

副会長 中西重裕

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