朝間邸

朝間邸

IMG_8667概略)昭和3年(1928 年)完成、設計施工者・宇治田某、構造・煉瓦造及び木造、建築主・中原嘉吉

沿革)染糸業で財を成した中原嘉吉氏の本宅である。大正13年着工、昭和3年完成。現在の所有者である朝間氏が昭和30年に所有するまで所有者が入れ替わるという時代を経て現在に至る。

特徴)北側に位置する2階建ての洋館には各階それぞれ3つの上げ下げ窓があり三角破板が取り付けられている。

 2階部の外壁の仕上げは那智黒石で1階部分はタイル貼でありこの建物の特徴の一つである材料の選定の美しさが挙げられる。これらどうように建物を囲っている塀の材料は、かつて和歌浦近辺の海岸でよく採取された緑IMG_8641泥片岩が使用されている。これらの石はサイズの似た物を丁寧に壁に埋込むように設置されている。素材と工法が実に美しい景観を形成する要因になっている。母屋は入母屋の木造平屋である。天井高のある10畳の座敷には手入れの届いた外庭と内庭に挟まれ実に居心地が良い。竣工から80 年余り経過したとは思えないほど各部材は狂いもなく美しく佇んでいる。

 この中庭を囲うように長い廊下が延び茶室へと繋がる。中庭を眺IMG_8643めながら茶室へ向かうこの距離間は茶室というものの存在を厳格化し、この住宅における位置づけをより顕著に表しているように思えた。

未来へ)朝間邸はもはやこの地域一体のランドマークとなっている。国道に面している事から、特徴的な洋館や塀を眺めながらこれまで人生を過ごした人も多いのではないだろうか。筆者である自分もその1人である。このような建物が和歌山県下においてはまだまだ数多く存在する。中でも民間所有の物件ともなれば奇跡的に残っているといっても過言ではないほど貴重な物件ばかりである。

建築史上、表舞台に出る事は数少ないかもしれないが、無名の棟梁と、設計者がいて、彼らの陣頭指揮にあたった施主がいてこのように人の記憶に残る建物ができたのだ。これらの住宅は地域の財産でもある。これらの意味を通して、これほど外に開かれた住宅は存在するだろうか。現在の技術や素材を駆使してもこれほどのことを行うのは決して容易い道ではない。同じ建築道に生きるものとして彼らの功績に経緯を表し、陰ながらいつまでも遠くから眺め、後世に語り継いでいきたいと思った。

【会報誌きのくにH23年2月号掲載】

出版・情報委員 東端秀典

このページの上部へ