THE LIVING ROOM (旧田殿保育所)

THE LIVING ROOM (旧田殿保育所)

◆所   在  和歌山県有田郡有田川町長田546

◆原 設 計  株式会社 雑賀建築設計・雑賀孝夫

◆建築概要  鉄骨造平屋建て

敷地面積2038.13㎡ 建築面積909.32㎡ 床面積804.00㎡

◆施設概要  テナント、シェアオフィス

◆運   営  株式会社 地域創生

今回は有田川町にある『THE LIVING ROOM』をご紹介します。建物は有田川の南側に位置する堤防道路から下った、閑静な住宅地の中にあります。旧田殿保育所は昭和54年(1979)に旧来の木造園舎から現在の鉄骨平屋建てに立て替えられ、地域の保育所としてその歴史を積み重ねてきました。しかし人口減少社会の中、田殿地区においても子供の人口減少が予想されていること、また大震災に対する建物の耐震性等の課題が有った為に議論を重ねた結果、閉園・移転という結論に至り、田殿保育所は平成28年(2016)3月末をもって58年の歴史に幕を閉じる事が決まりました。同じ頃(2015)、有田川町に米ポートランド市との特別連携プロジェクトがスタートします。きっかけは2014年に公表された日本創生会議の統計によるもので、2010年から30年間に若年女性の人口が半分以上減ると推測される自治体が「消滅可能性都市」の対象とされました。有田川町も例外では無く、人口減少を食い止めるため、また増加させるために始まったのが「暮らして楽しい(おもしゃい)有田川町」を目差す、地域住民が主体となったまちづくり・地域力アッププロジェクトでした。プロジェクトの核として廃園が決まった田殿保育所跡地の再生が計画され、ポートランドの建築に携わるプロフェッショナルとまちづくりチーム(AGW)が役場職員と共にミーティングを重ね、地域住民の意見やワークショップと閉園イベントで集められたアイデアをもとにリノベーションが進められました。そして再生を果たした旧田殿保育所は2018年8月に複合施設『THE LIVING ROOM』としてオープンしました。

正面から建物を見渡すと、茶色い切妻屋根の背後に広がる緑の山々と、建物中央に開かれた空間の先に視線が向かいます。そこには隣接する浄教寺の山門が、まるで建物の一部のように見えてきます。旧田殿保育所を再生するにあたって、地元の方々から「元々あった参道を復活させたい」と要望が有り、保育室の一部を解体して正面通路から真っ直ぐ、直接お寺まで通り抜けられる“道”を設けたそうです。その他に大きく変わったところは、耐震の為に屋根を瓦葺から金属葺に仕様変更した事と水廻り(トイレ)を改修したぐらいだそうで、保育所時代の面影が建物のあちらこちらに残され、再利用されています。入居テナントは現在4店舗で、元職員室は天井まで吹き抜け、大きな窓から明るい光が入る広々とした空間のカフェ&ビアバー(GOLDEN RIVER)、元お遊戯室は銀色の醸造タンクが並ぶクラフトビール醸造販売所(NOM CRAFT Brewing)、そして元保育室はパン屋さん(GRAND ANENIR)とまつげサロン(目ヂカラLAB)になりました。役目を終えた旧田殿保育所が、住民の憩いやもてなしの場として、また若者たちのチャレンジの場として「有田川の未来」をつくっていく場所に生まれ変わりました。

とっても美味しいコーヒーとクラフトビールが頂けます。みなさんも「まちのリビングルーム」に集ってみませんか。

【会報誌きのくにR4年9月号掲載】

情報・出版委員会  西 祐代

 

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