道の駅 四季の郷公園 FOOD HUNTER PARK

道の駅 四季の郷公園 FOOD HUNTER PARK

 

建築主:和歌山市

設計監理者:株式会社 JR西日本コミュニケーションズ

施工者:城善建設株式会社

建築面積:火の食堂 504.88㎡、水の市場 333.14㎡

延床面積:火の食堂 423.54㎡、水の市場 304.32㎡

 

昨年7月、和歌山市にまた魅力的な公共空間が生まれました。

 “FOOD  HUNTER  PARK”と名付けられたこれらの施設は、和歌山市の南東部に位置する25.5haもの広大な敷地を有する「四季の郷公園」に誕生しました。(※四季の郷公園・・・約30年前に農業公園として整備・令和2年3月に和歌山市初の「道の駅」として登録される)

 園内には、様々な植物に加えて、子供達が楽しむ事が出来るローラースライダーやぶどうの形を有した遊具などもあります。

 

 竣工して約30年が経過し、施設の老朽化が進んだこともあり平成28年度にリニューアル基本計画を策定し、昨年の開園となりました。 今回の事業での特筆すべき点は和歌山市で初めての試みとなるDBO(Design Build and Operate)方式が導入された点です。 DBO方式とは事業設計、施工・管理運営を一体的に発注する方法です。

 通常の公共事業では設計・施工・管理の入札が別々に行われ業者を選定します。この方式に対してDBOの場合は前述の様に一度の選定作業で設計・施工・管理運営まで一括で決定することができます。 よって、設計者や管理者の意図、これらを初期段階から摺り合わせることが可能であり、無論施工段階でこれらの内容を反映することも容易となります。 全体的なスケジュールが短縮されることは当然ながら、完成後のイメージに寄り添って進められる方式であるため非常に魅力ある施設作りが可能となります。

 よって、今回のように”Be Wild 野生を楽しもう!” というコンセプトを首尾一貫して貫き通すことができたのもDBOの成果です。  このDBOを担ったのがLLP(Limited Liability Partnership=有限責任事業組合)です。 設計事務所、ゼネコン、広告代理店、旅行会社、飲食店、物販店など9社で構成されています。 計画段階から運営を念頭にプロジェクトを組んでいくことで従来の方式に無い運営段階での差異や違和感を感じることがありません。 これまで数多くの公共建築を取材して感じることは設計意図と運営される方との相違です。 管理の仕方一つで建物の善し悪しは大きく変わりますし、設計が決定する空間構成にあと少し工夫があればもっといい管理ができるなと痛感しておりました。 それが本施設ではほぼ無く、それが魅力作りの一端を担っていると思いました。

農産物直売所(外観)

 肝心の建築に触れるのを忘れてはいけません。本施設では元々ネイチャーセンターとして利用されていた建物の改修により地域食材レストラン“火の食堂”、新築工事として水辺に立つ農産物直売所“水の市場”が誕生しました。火の食堂ではコンセプトを反映したインテリアが特徴です。

 中でも中央に自然木を配置したテーブルは圧巻です。石釜から香る焼きたてパンの香りや食堂から垣間見える調理の雰囲気もいいです。 新たに建築された水の市場は文字通り隣の池を見ながら地域の特産物を購入することができます。 敷地の形状に寄り添うように計画された建物は緩やかな円弧を描き、建物内を回遊するのが楽しくなります。 木造の大型建築で、人に寄り添った温かみのある建築です。これらに合わせて、BBQエリアとして“炎の囲炉裏”やこれらを含んだ芝生広場など建物周辺のランドスケープも合わせてリニューアルされています。 コンセプトを反映した野生の醍醐味を体感できる仕掛けが随所にあり、ゆったりと過ごすことが出来ます。

 

 和歌山市で初めて採用されたDBO方式によって、これまでにない公共空間が誕生したと言っても過言ではないと思います。 全国的に見ても数少ない成功事例ではないでしょうか。 建築家は“モノ”のデザインから“コト”のデザインに言及する時代に入ったことを知る機会になったと思います。 しかし、それは設計者として本質的なものであることを忘れてはいけません。 多くの対話を通して我々の公共建築をどんどん良くしていきたい。 四季の郷の大自然に触れて大切な事を気付かされました。

 

【会報誌きのくにR3年5月号掲載】

情報・出版委員会 東端秀典

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