紀の川市新庁舎

紀の川市新庁舎

 

■竣工 平成25年7月

■構造・規模 地上7階、地下1階 S造、基礎構造、一部SRC造

■建築面積 2904.24㎡

■設計:株式会社久米設計 大阪支社

■施工:東洋建設株式会社 和歌山営業所

 

母なる川、紀ノ川沿い。のどかな田園風景の中、ひときわ輝く建築があります。葛城山脈を背景にそびえるのは、5町が合併して誕生した紀の川市の庁舎です。

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建物に近づくにつれ、その建築の雄大さを感じることができます。水平・垂直が強調され、透明性のある建築はどこか日本建築の風情をも感じさせてくれます。全面ガラスに覆われつつも、フロア事に出た庇により建物全体のリズムが整い、プロポーションが非常に落ち着く印象を受けました。中層建築としては秀逸の作品であると思います。周囲には電線や高層ビルなどはなく、広がる自然を背景に聳え立つ本建築は近代的で有りながらも異質なものにはなっておらず、むしろ新たなランドマークとしても機能しているように見えました。

 

050_1階 エコラウンジ_R昨今の庁舎建築には、住民に対するサービスは元より、災害発生時の拠点としての機能を持ち合わせる必要が大きくあります。また、環境に配慮するということはもはや庁舎建築のみならずあらゆる建築におけるプログラムの中で重要視されています。本建築もいずれもそれらを兼ね備えておりこれらはデザインと共に上手く融合されています。地下部分には免震層が設けられ水平移動600㍉を許容する仕組みとなっています。また、建物内部に設けられたエコボイドと評された光井戸により、中間期の空調負荷を軽減するために建物の廃熱処理を可能にする仕組みが設けられています。この吹抜けにより、いずれのフロアにいても自然光を内外から感じることができ閉鎖的になりがちな執務空間に広がりを与えてくれます。外部のカーテンウォールも無駄の無いデザインとなり、床から天井まで覆うガラスにより周囲の風景を余すこと無く望むことができます。取材時、田園の緑鮮やかな時節あり、足下付近の稲穂の気配と遠くに見える和歌山市内の遠景が重なり、紀の川市の位置づけを再認識させてくれました。

 

069_5階 ロビー_R本建築では設計段階からインテリアに対する配慮がなされているのも特徴です。中でもサイン計画はすばらしい成果を生んでいます。通常、庁舎などでは窓口表記を天井吊り下げのものにしているケースが多いのですが、本建築ではそれらを抜本的に見直し、自立型のサインを採用しています。これらにより、一つのフロアの見渡しよくなり、来館者・執務者の互いの関係がうまく機能しています。また、サインに使われるフォントは統一され、各フロアは地元特産品である農産物の色によって分けられ、大きな数字を使って識別されているので来館者にとっては非常に利用しやすいものとなっています。文字通り、ハードとソフトが融合された建築となっていると印象を受けました。

 

庁舎建築は今後の日本の行政を考える上で大切な役割を担っています。かつてのような権威的なものではなく、親しみのある開かれた建築であることが求められています。行政サービスも複雑化を極め、執務する人にとってはこの場所が最前線となり基地となります。よって、当然の如く使用者側にとってのデザインが求められます。本建築はそのような視点においても国内で有数の庁舎建築に入ると思います。これら建築の評価点は新しく生まれた紀の川市のすばらしい姿勢であると高く評価します。本建築が庁舎建築であるという点は市民にとっても誇りであると思われます。

【会報紙きのくにH27年10月号掲載】

情報・出版委員会 東端秀典

写真提供:株式会社 エスエス大阪

撮  影:走出 直道

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