海南市役所 新庁舎

海南市役所 新庁舎

南東面 外観■構造・規模 地上5階建 鉄筋コンクリート造、一部鉄骨造

■建築面積 13399.72㎡

■延床面積 10273.37㎡

■設計監理 日建設計

■施工 イチケン

 

 昨年11月、海南市役所が新しく生まれ変わりました。来たるべく南海トラフ地震による津波被害に備えて、海抜の低い場所にあった場所から新たに高台にある敷地への移転となりました。長く市民に親しまれた旧庁舎(本書2016年2月掲載)も大変立派な建築でしたが新庁舎もこれに勝るとも劣らない建築となっています。

 本建築の大きな特徴は既存建物を流用している点です。元々、県の第3セクターとして利用されていたリサーチラボのビル(RC造地上5階建)を耐震補強し、さらに議場を中心とした新たなスペース部分(RC2階建)を増築する方法で成立しています。両端コアの事務所ビルだった建物のコア部分を耐震補強し、これに合わせて新たにアウトフレームを建物の前後で挟むように組み込む事で耐震性能を向上させています。このアウトフレームにより、従来の耐力壁を挿入する改修とは違い、豊かな眺望を確保しながら自由な間取りを実現することができています。またこのアウトフレームの存在が意匠的にも従来の建物の雰囲気を一新し、かつ新たな息吹を吹き込んでいるように見えます。

 これらのアウトフレームのリズムに呼応するように増築部分のファサードはデザインされ、この建築が既存利用であるということを気づかせないような働きをしています。2層吹き抜けをもつエントランスを入れば、利用頻度の高い市民の為の窓口が一同に介するように配置されています。高い天井の両側からは緑を介して光が差し込み光溢れる空間となっています。また、この吹き抜けに面して2階部分に庁舎建築の中でも大切な用途である議場が配置されています。この議場では地元の伝統産業である漆を使った装飾が施され脈々と受け継がれる地元の歴史を感じさせてくれます。高い天井付近のハイサイドライトから差し込む光、紀州材をあしらった壁面装飾は議場という緊張感を保持しつつ、地元の特色を感じさせてくれています。

 既存棟部分の上層階では配置された家具が低く統一されているのでフロア全体を見通すことができ、広がりを感じることができます。中央の通路を挟んで両側に規則正しく配備された事務スペースでは高台に立地する故、眺望がすばらしく開放的な雰囲気がありワークスペースとしては理想的な環境であると思います。サイン計画も建築と呼応しており、訪れた人が迷うことなく目的の場所へ向かうことができます。

 新築で計画される庁舎が多い中、本建築のように既存を利用した庁舎建築を実現することでコスト削減が行われています。しかし、実際はそのような雰囲気を感じさせない(既存利用)意匠でまとめられており、設計者・施工者の技量の高さを感じます。スクラップ&ビルドが横行する昨今、空前のリノベーションブームが押し寄せる昨今、既存建築を使った本物の仕事を体感した気がしました。それが庁舎建築であることは市民にとって、働く人にとって誇りとなり、やがてその姿が地方都市、地方議会のあるべき姿の模範となるのではないだとうかとすら思うほどでした。これらの英断の先に未来の海南市の目指す姿があり、明るいものであると思いました。

【会報誌きのくにH30年10月号掲載】

情報・出版委員会 東端秀典

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