ドクターヘリ格納庫

ドクターヘリ格納庫

所在地 和歌山市加太

規模  建築面積 417.36m2、延べ面積 404.68m2 地上1階

構造  木造(屋根架構:平行弦トラス、木材使用量:150m3)

設計  (株)岡本設計

工事監理 (株)田渕建築設計事務所

施工  建築:(株)ワッグ建設

電気設備:第一電気設備工業(株)
機械設備:山下アロー設備(株)

総整備費 4.7億円(本体工事費 3億円)

竣工  2022年11月

 

県の救急医療用ヘリコプター(通称=ドクターヘリ、エアバス社製H135)の格納庫(2機収容可能)が「コスモパーク加太」(和歌山市加太)に新設されている。給油施設も併設され、その貯蔵量は、大規模災害時に救援に来たヘリコプター5機が二日間活動できる3万リットルとなっているそうだ。

御存知の方も多いかもしれないが、「コスモパーク加太」は関西国際空港第一期工事の埋立地造成に要する土砂を採取した場所の一つ(他は大阪府内)である。土砂採取によってできた土地に企業誘致などにより新都市を建設する計画であった。その土地は252haにも及ぶ。土砂採取は1986年から始まったが完了したのは1993年で、バブルが崩壊した後になってしまった。新都市建設はもちろん企業誘致も思うに任せず、広大な土地が借金(土砂採取に要する費用は土砂の売却費だけではなく土地が売却できてはじめて採算がとれるものであった。)ともに残ってしまったのである。筆者は土砂採取の候補地が決定される際に跡地の計画を作成するチームに加わっていて、土砂採取地に選んでもらうために、近畿地方建設局(現在の近畿地方整備局)に何度も通ったことが思い出され、現在の状況を見ると感慨深いものがある。

台風時に大阪湾からの風が通り抜ける強風地であるため、強風対策の強度確保が求められたため、特にシャッター対面の壁面は広いので耐風梁を2段にして対応したそうだ。木材は紀州材、JAS相当材、無垢材が使われている。スパン長18m(架設長21.84m)を左右から持ち出した2段のトラス(平行弦トラス)で架設されている。金物があまり見えないスマートな組立で美しさ、木の存在感が際立つ。

なお、18mを超えるスパンを無垢材での設計・施工は県内では経験がなく、東京大学の腰原教授に助言をもらい設計を実施したとのこと。県内の中大規模木造建築物の技術力向上も木造とした理由の一つであったと聞く。

普段は県立医科大学附属病院(紀三井寺)の屋上で待機するドクターヘリは、台風など荒天が予測される場合には、この格納庫ができるまでは神戸空港まで避難していた。この格納庫の設置により避難時間の短縮や天気回復後の早期復帰が可能になったという。

最も遠い串本の紀伊大島まで25分で到着し、年間500回ぐらい出動する。救急科医師1名、看護師1名、パイロット1名、整備士1名の合計4名が搭乗して、傷病者を病院へ搬送する。

正面シャッターにはドクターヘリのロゴと併せて、医療・救急救命を意味するStar of Life(生命の星)のマークが付けられている。調べてみると、このマークはアスタリスクと呼ばれる六角形の星と医術の守護神アスクレピオスの杖(蛇が絡んでいることが特徴)でできている。最近は救急車にもつけられていて、ときどき見かけることがある。

ヘリコプターは自走できないので、格納庫に入れるためには牽引車が必要となる。

外観はロゴマークを除けば単なる倉庫・工場にしか見えない。しかし、中に入ると印象は一変する。木造の架構が目に飛び込んでくる。平行弦トラスという架構の美しさ、何もない天井の高い空間の中で屋根の架構だけが目を引くのである。18m×16mの無柱空間が圧倒的である。木材の持つ質感、特に無垢材の持つ質感とその圧倒的な量がそうさせているのだと感じた。木造としたことの勝利ではないだろうか。

しかし、これをヘリコプターにだけ見せておくのは余りにも勿体ない、それだけ素晴らしい内部空間である。様々な人の努力で実現した木造の大空間なのだから「もっと多くの人が、この空間を体験できると良いのになあ。」という感想を抱いた次第である。

会報誌きのくにR7年12月号掲載】

情報・出版委員 中西達彦

 

 

このページの上部へ